埼玉県立がんセンター > 臨床腫瘍研究所 > 研究所プロジェクト紹介 > CAR-T療法における抗腫瘍効果の向上とその分子メカニズムの解明
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掲載日:2023年9月12日
担当:和田朋子
最近のがん治療において、外科的切除、薬物療法、放射線療法に次ぐ第4の治療法として免疫療法が注目されています。免疫療法は生体内の免疫を強めることによって抗腫瘍効果を得る治療法です。
免疫療法の一つであるCAR-T療法は、遺伝子改変によって特定のがん抗原を標的とさせたT細胞を体内に戻す治療法です。日本においても血液のがんに対する抗CD19 CAR-T細胞療法の承認申請が行われるなど、我が国でも広く普及することが期待されています。現在米国においては血液のがんだけでなく、神経芽腫に対しても、GD2と呼ばれる糖鎖抗原を標的とした抗GD2 CAR-T療法の研究が行われています。しかし、移入した抗GD2 CAR-T細胞は分裂しにくく患者さんの体内での生存期間が短いことが知られ(A Heczey et al., Mol. Therapy 2017)、十分な抗腫瘍効果が得られない場合もあり(CU Louis et al. Blood 2011)、今後も新たな治療法の開発が望まれています。
最近の研究報告で、CAR-T療法を受けて寛解が認められた慢性リンパ性白血病患者の体内に残っているCAR-T細胞を調べたところ、TET2遺伝子座か欠損していることが明らかとなりました(Fraietta JA et al., Nature 2018)。そこで私たちはこの報告に注目し、ゲノム編集技術を応用して人為的にTET2遺伝子を欠損させることで、神経芽腫における抗GD2 CAR-T療法の抗腫瘍効果を高める研究を進めています。また、TET2はDNAのメチル化シトシンを5-ヒドロキシシトシンに変換することにより、ゲノムワイドに遺伝子の転写に関与することが知られており、TET2の欠損によりCAR-T細胞内でどの様な遺伝子発現や表現型の変化が生じるのかという点についても解明する計画を立てています。また、TET2の存在により産生される5-ヒドロキシシトシンが転写の活性化や抑制に一貫してどのように関与しているのか等、抗腫瘍効果のメカニズムについても探索します。
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